思いを伝える

はじめに

時として、理解できないことを言われることがある。逆に、理解できないと言われることもある。思いを伝えるためには何が必要なのか。思いの背景にある関係、視点、目的、姿勢といった要素に分解して考えてみる。

関係

思いを伝えるためには、自身の置かれた立場を把握し、周囲の関係を意識する必要がある。

以下に、存在している関係を示す。

具体的な関係のカテゴリー

  • 組織内の機能
  • 組織内の役割
    • マネージャー、リーダー、チームメンバー
  • 組織外の関係
    • 株主・利害関係者、エンドユーザー、国・自治体、環境・世界
  • 個人的な関係
    • 家族、パートナー、友人、地域のコミュニティ、オンラインコミュニティ

抽象的な関係のカテゴリー

  • 関与範囲
    • 組織内部、組織外部
  • 責任の程度
    • リーダー層、中間管理層、基盤メンバー層
  • 物理的な距離
    • 同居、地域、国際

関係の度合い

  • 深さ、密度
  • 期間、特定のタイミング
  • 依存度

関係する人数

  • 規模
    • 個人、少数、多数
  • 相互関係
    • 1対1、1対多、多対1、多対多

多様性

視点

どのような思想を中心に据え何を目標に行動しているのか。多角的に視点を把握することで、物事や発言に対する思いの理解が深まる。

以下に関係の中で現れる視点を以下に示す。

友人・家族

  • 中心思想: 相手の感情に寄り添うこと
  • 行動: 誠実さと一貫性を示し仲間になる

顧客

  • 中心思想: 自身の欲求を満たし価値を感じること
  • 行動: サービスを得る

経営

  • 中心思想: 価値のあるサービスの提供
  • 行動: 過去の成功にとらわれず、今必要なサービスを見つけ、それを達成可能な組織の全体最適化と文化を育む

投資

チームメンバー

  • 中心思想: チーム全体の目標達成とメンバーの成長
  • 行動: チームの一員として相互協力し、個々の成長と共通の目標に向かって努力する

テクノロジー・インフラ

  • 中心思想: 最先端科学技術の工学
  • 行動: 便利で効率の良い新しい基盤をつくる

グローバル

  • 中心思想: 世界規模での価値の確立
  • 行動: 国際状況を把握し、立ち位置を明確にする

目的

発言の中にある思いには目的がある。その目的を達成するための思考を巡る。

考えられる思いの目的とそこで働く思考を以下に示す。

発想

良いアイデアを創造するには、深い洞察と柔軟な発想が必要となる。また、異なる分野や視点を統合し、独自の視点からアプローチすることが不可欠。

  • 一人で考える

    チームワークは作業に向いているが思考には適していない。ブレインストーミングよりも一人で集中して考えるほうが良いアイデアが生まれやすい。

  • 多様な経験と考察

    神経科学によれば、すべての思考は記憶によって作られており、アイデアもまた知識の中にある既存の事例や良い部分を抽出して組み合わせることで生み出されている。よって、アイデアが出ないというのは、体験が不足しているか、体験したことを深く分析していないこと原因である。

決断

決断とは、現状から最適な選択をすること。決断はスピード感や多角的視点、柔軟な姿勢が重要となる。これらを織り交ぜた、楽観的で心配性な姿勢が最適な決断を可能にする。

  • スピード感

    決断の速さは競争の優位性を生み出す。データが不足しているような不確実な状況下であっても、即座に行動することが求められる。

  • 多角的視点

    決断はスピードだけでなく、現状ある関係の把握し、多角的視点を利用し、最大の結果になるようにしなければならない。視点の把握漏れは判断の誤りに直結している。

  • 柔軟な姿勢

    決断の結果に対する柔軟な姿勢は、持続的に良い結果を出すことにつながる。進む過程で見える視点は変わるし、時代によって変化する。失敗を恐れずに受け入れる。それがより良い結果へ軌道修正を可能にする。

広報

広報は価値を広く知らせ、仲間の獲得に貢献する手段である。以下の点を考慮する。

  • 認知され価値になる

    どれだけ良いこと・ものがあったとしても、知ってもらわない限り無いのと同じだ。全く無名なら地道に身の回りから認知を獲得し、拡大し、繰り返し広報するしかない。本当に良いものとして認知の輪が色濃く広がることでブランドが確立する。

    迷惑をかけるような広報はいけないが、社会への認知のために過大になってしまうことは致し方無い部分がある。

  • 寄ってくるフリーライダーへの対処

    広報で過大広告をすると採用の面で問題解決できる人材ではなくフリーライダー(ただ乗りする人)が寄ってくる。問題解決できる人材とフリーライダーは表裏一体である。フリーライダーを問題解決できる人材に変えていかなければ、広報と採用のコストが無駄になる。

  • 広報とビジョンは一致する必要はない

    現場感から遊離した過大広告を組織のビジョンに関連付けることで盲目的な組織愛が生み出される。それが意見や状況の変化を無視し、何を言っても無駄な組織に変えてしまう。広報は広報として組織内部に持ち込まないようにするのが良い。

組織的問題解決

問題解決のための組織は、事業や顧客に向かう時間を最大化するためにあるべき。そこで組織的問題解決においては、以下の点に留意する必要がある。

  • 最小限の組織施策・マネジメント

    組織施策・マネジメントを必要最低限にして、事業や顧客に向かう時間を最大化する。

    外部評価のための施策はやめる。例えば、MVVの刷新、オンライン教育、評価制度の見直し、1on1制度、コーチングなどを何も考えず実施しない。

    チームのだれか一人がマネジメントを請け負うのではなく、メンバー一人ひとりが組織を良くするためにセルフマネジメントをする。

  • 組織を変える人が役職者

    能力を発揮できない役職で滞留するような昇進制度は、最終的に組織全体の能力までも無くす。組織を変えたいとする人がその権限を持って組織すべき。

絆を深める

深い絆を育むためには、心を開き、相手を根気よく理解することが必要となる。以下に要点を示す。

  • 相手は慎重に選ぶ

    絆を深めるためにはポジティブな感情だけでなく、時には拒絶的な感情を受け入れる必要がある。だからこそ、関係を深める相手は慎重に選択する。

  • 目線を合わせる

    意見やアドバイスで返すのではなく、質問や確認を通じて相手を理解しようとする姿勢が絆を深める。同じ目線に立ち、互いの欲求や意図を確かめる。

  • 無目的な発言

    無目的な発言は絆を深めることが目的である。無目的な発言に耳を傾けることは時間的にも精神的な余裕が必要となる。大切にしたい相手にだけ、発言から感情のベールを剥がし本当の目的を受け取るようにする。

姿勢

理解したいと思う姿勢が理解につながる。

個人があるべき姿勢を以下に示す。

反射的な反応をしない

反射的に反応してしまうと、的確な判断や表現を妨げる。発言する前に状況を十分に把握し、冷静に思考できない場合は、一時的な距離を置くようにする。練り込んだ思考だけを伝えるようにする。

問題の構造に着目する

問題をどうしても特定の個人に押し付けようとしてしまう。しかし、問題の原因はその背後にある構造によるものだ。起こってしまった問題は仕方がないと考え、構造に着目し問題を解決する。

文脈を把握する

思いを伝える言葉は、常に特定の文脈や状況に基づいている。文脈の異なる関係間でそれを無視すれば意思疎通できない。言葉の意味を深ぼる姿勢をとり、価値観に浸かって文脈を理解する。ただの部外者の発言では響かない。

具体例の利用

具体例は言葉の抽象度を下げ、思いに手触り感を出す。ストーリ、データ、固有名詞を使うことで、話の解像度があがり認識を合わせることができる。

相手を明確にする

相手が明確であるほど思いが乗る。聞きたい、読まれたいと思う言葉を選択しないと思いは誰にも伝わらない。伝えようと思う相手は未来の自分でもいい。逆に言葉を受け取るとき、その伝えたい相手を想像してみる。その言葉の裏側にある意図が読めてくる。

ポジショントークを避ける

自己の立場や地位に囚われず、問題の本質や解決策に焦点を当てる。自身の価値観について深く思考し主張していなければ、立場で話すことしかできなくなる。

アドバイスを求める

客観的な視点を持つことは難しい。自身に似合う服を選ぶのでさえ難しいことだ。言葉が適切に伝わっているかどうかを判断するのは難しい。他者からどう見られたか、どう感じたかと言ったフィードバックは価値がある。

まとめ

状況に合わせて関係、視点、目的、姿勢を重ね合わせることで、思いが伝わる言葉選びができる。自身が冷静でないと見落としてしまいそうなことがあまりにも多く、伝える相手の優先順位や状況によって、あえて伝えないことも一つの手段となる。

相手の立場や視点を尊重し発言を分析するとき、納得できる余地を生み出すことができる。それが心の余裕につながっていく。多くの人が伝えたいと思う意識が重なり合い、思いが伝わる関係が広がっていくように思う。